沈黙(遠藤周作) [日本文学・本棚]
日本人作家の中で、私のお気に入りベストテンに入るのが遠藤周作、その中で最も印象に残っている著作の一つが、この「沈黙」。高校時代にこの本を買おうとしたら1500円、当時の私には高い金額なので躊躇していたら、友人から読書感想文を代筆するアルバイトが舞い込んできます。そこで私は、遠藤周作の「沈黙」1冊で引き受けました(友人は、こんなに高い本だとは思っていなかったようで、ちょっと嫌味を言われました^^)。その上、私が書いた読書感想文が迂闊にも入賞してしまい、彼はずいぶん困ったようです。
キリスト教徒でなくとも、高校生の私に対してさまざまな問題提起をしてくれる本でした。その理由の一つは、遠藤周作はキリスト教徒でありながらキリスト教から一歩離れた視点で作品を作り上げているからかもしれません。主人公は、宗教と愛(自己犠牲)の一見矛盾していないこの2つの狭間で葛藤にもがき苦しみながら、最終的に「転ぶ(キリスト教を捨て改宗する)」ことを選択し、過酷な拷問を受けている隠れキリシタンたちを救います。主人公の神への疑問を抱くシーン、奉行が歪曲されて日本に根付いていくキリスト教について説明するシーンの精神的残酷さ、など読み手を真剣にさせる本です。
硝子戸の中・夢十夜(夏目漱石) [日本文学・本棚]
このブログを書くようになってから、いろいろ印象に残る本を振り返っていますが、その多くは、中高時代に読んだものです。大学時代にもいろいろ読み漁りましたが、実用的書物が多くなり、これらについてはそれほど印象に残っていません。また、社会人になってからは、更に実用書に傾倒しほとんど小説や文学作品を読まなくなりましたので、読書を趣味としている以上、これはちょっと反省しなければなりません。
夏目漱石の著作はあれこれ読みましたが、その中で印象に残っているものの一つが、彼の晩年の随筆(他界する前年の作品)、「硝子戸の中」です。漱石は、49歳で他界していますので、当然この随筆も、40代で書かれたものになります。この随筆からは、漱石が自身の死期がそう遠くないことを悟った上で、自身の本音を吐露している、ことが印象に残っている理由かもしれません。
長い道 (柏原兵三) [日本文学・本棚]
藤子不二夫の「少年時代」の原作。後に映画化(山田太一監督)されますが、どちらも内容が少し原作から変えられているようです。
ストーリーは、戦時中に都会から田舎へ疎開してきた小学生の疎開先での物語。原作となった小説・漫画・映画のどれもそれぞれ良さがありましたが、小説を一番気に入っています。漫画と映画での「いじめ・決闘」のシーンが、少し刺激が強いように感じるからです。もし、漫画か映画かを御覧になられていたら、是非原作の小説を一読してみることをおすすめします。
私は、田舎に住んでいるので、この物語を読んでいくと、どうしても疎開してきた人たちを受け入れる側に感情移入してしまいます。父に聞くと、当時はやはり疎開してきた子たちを見ると、都会と田舎の格差を感じたと言います。当時は、今以上に都会と田舎の格差が大きかったので、それが妬みやいじめの要因になったのでしょう。疎開先の学校のボスの「たけし」は、成績優秀・運動神経が良い反面、どこか陰にこもり、陰険ないじめをするのは、あまり裕福でない家庭環境が影響しているようです。登場人物は小学生、そして舞台は農村と小学校なのに、なぜか暗い雰囲気が漂うのは、時代が戦争も末期に近い頃だったからかもしれません。
以下、藤子不二夫の漫画と、DVD化された映画です:
*井上陽水の歌、「少年時代」は、驚くほどこの物語に合っています。
韓国映画「われらの歪んだ英雄」は「少年時代」に非常によく似たストーリーです。この映画を観ると、大らかで寛容な韓国人にも、このような陰険な一面があることにちょっぴり驚かされます。ここでのボスであるオム・ソクテ(厳石大)も、実質上の主人公である転校生のハン・ビョンテも、「少年時代」のそれぞれの登場人物によく似ています。新任の先生をバックに、旧友たちがボスのソクテを告発しているシーンで、劣等性キャラのキム・ヨンパルが、「おまえら、みんなも悪い!」と泣き叫ぶその言葉には、考えさせられるものがあります。